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Rating:
Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Additional Tags:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2025-10-20
Words:
2,144
Chapters:
1/1
Kudos:
3
Hits:
32

どうかあなたに

Summary:

雨の日のマークとスティーヴンとジェイクが部屋で穏やかに過ごす話です。
分裂していない世界、ジェイクの一人称は「私」イメージです。

Work Text:

 軽やかな鼻歌に頬を緩める。
 鏡の中のシーツに頬を預けて、マークはゆっくりと瞬きを繰り返した。
 なんだか眠いような気がするし、まだ眠りたくないような気もする。出来ればこの鼻歌はもう少し聞いていたいなと足を揺らした。零れかけた欠伸を飲み込み、うつ伏せになった身体から力を抜く。未だ夕食も終えていないのに頭はもうほとんど眠る気でいるようだった。
「マーク? 寝るのか?」
 背後から掛けられた声に頭を動かす。半分頷き、半分首を横に振ったような動作に小さく笑った息が聞こえた。
 ム、と唇を曲げて振り返る。自分と同じようにうつ伏せになっていたジェイクは、どうしてかこちらに手を伸ばしかけているところだった。
 重いまぶたで瞬いて、そうか、スティーヴンに用があるのか、と再び身体を伏せる。鏡の向こうでブランケットにくるまっているスティーヴンは、ベッドの上にココアを持ち込んでちびちびと飲んでいた。昨日紅茶をひっくり返したばかりだろと思いながらも、彼の時間を邪魔したくなくてシーツに頬を押し付ける。鼻歌を歌いながらマグを傾けた彼は、ちょうど本のページを捲るところだった。
 どういう構造になっているのか、あるいは自分の頭がどう認識しているのか、『内側にいる』時にはほとんど鏡の向こうの状態が反映されることが多い。何分か前にスティーヴンがソファにいた時には自分たちもソファにいたし、キッチンでココアを作っている時は素足で床の上に立っていた。もう少し意識すれば心の奥のそれぞれの部屋に落ちることが出来るとはわかっていたが、スティーヴンからもジェイクからも離れる理由が見つからなくてぐずぐずといつまでも彼を眺めている。縋るような自分がみっともなく思えて、マークはほんの少しシーツを握る手に力を込めた。
「眠れないか? 寒いのか」
「ああ、いや、大丈夫だ」
 ブランケットやココアの入ったマグをぼんやりと見ていたからか、もぞもぞと近くにやってきたジェイクが声を掛けてくれる。引っ張り上げられたブランケットに包まれながら礼を言って、マークは申し訳なさに眉を下げた。単純に、ぼんやりしていただけだった。
 どうしてかやたらと構いにやってくる彼を不思議に思って、そういえばと背後を窺い見る。元々今日は自分が表に出ている予定だったから、今ここにマークがいることはジェイクにとっても想定外だったのかもしれない。考えてみれば悪いことをしたなと小さく息を零した。とんとんと背中を叩くリズムにまぶたが益々重くなる。眠りに落ちる寸前の心細さを感じたのか、背中側にいたジェイクはマークに覆い被さるように身体を包んでくれた。
 ぽかぽかとあたたかな体温にいっそう眠くなってくる。ぐずる子どものように身をよじると、ジェイクの声が「眠ってしまったってかまわないさ」と囁いた。いつもの彼よりもずっと穏やかな声だった。
 なにか秘めたような息の震え方に、シーツに頭を押し付けるように首を傾げる。振り向こうとした顔を彼の手のひらが覆った。強制的に閉じられたまぶたが震える。ジェイクの手のひらに触れたまつ毛は、もう持ち上げる気力も残っていなかった。
 スティーヴンが「かわってほしい」と言い出したのは、マークが表に出ている予定だった日の夕方のことだった。マークはその時、空の色が変わり始めるよりも先に広がり始めていた雲に気が付いて照明をつけたところだった。天気予報は確認していないが、どうもこれはひと雨くるな、と考えていたから反応が遅れて「ん?」と返す。全く話を聞いていなかったのにもかかわらず、スティーヴンは怒ったりはしなかった。
「悪い、なんだって?」
「ちょっとだけで良いから、かわってくれない? どうしても今日読みたかった本があったのを思い出しちゃって」
「明日はお前の番だろ?」
「うん、でも、ほら、今どうしても読みたくってさ」
「そうか……」
「マーク、良いんじゃないか? 今日はもう予定も無かっただろう」
「まだ整理が残ってる」
「あー……あの、スティーヴン・ファンタスティック・ボックス……」
「君のも入ってるって話だったたろ。ああでも、そう、そういえば僕まだ確認したいんだった! 明日やるからさ、また今度にしない?」
「……そうか?」
「そうだなあ」
「うんうん」
 スティーヴンとジェイク、主にスティーヴンがいつの間にか溜め込んでいた『とりあえずなんでも入れ箱』を整理しても良いという話じゃなかったかと首を傾げて、マークは結局どこか焦ったような二人に押し切られてスティーヴンと交代していた。嬉しそうにテレビをつけてソファで本を読み始めた彼は、雨足が強くなるとベッドの方へと移動していた。ちら、とこちらを見た彼によると、そちらの方がより集中出来るらしかった。「これがちょうど良いんだよね」なんて言ってテレビまで移動していたから、余程読みたかったのかもしれない。やや大きなバラエティ番組の音を流しながら本を読むスティーヴンの鼻歌は、ぼんやりと彼の姿を見ていたマークを穏やかに微睡みへと誘っていた。
 身体を抱き込んだジェイクの手が腹に回される。ぎゅうぎゅうと少しだけ圧迫感を与える触れ方に、そういえば子どもの頃は息苦しいブランケットの中が好きだったなと小さく笑った。身体を包まれる感覚が心地よくて、うとうととまぶたを閉じる。「おやすみ、マーク」と重なった二人の声に、窓を叩く雨音がかき消されていた。
 スティーヴンとジェイクが囁くように何か話す声を聞きながら、小さく「んん」と返す。ああ、おやすみ、なんてクールに言った気でいたのに、聞こえたのはなんだか緩んだむにゃむにゃという声だけだった。
 頭に唇を押し付けられたのを感じてくすくすと笑う。
 今夜は良い夢を見られそうだった。